札幌高等裁判所 昭和27年(ラ)5号 決定 1952年7月05日
北海道○○郡○○○町字○○○○○番地
抗告人 甲
右代理人弁護士 乙
右抗告人は、申立人丙事件本人抗告人に係る旭川家庭裁判所昭和二六年(家)第一、二二八号準禁治産宣告審判事件について同裁判所が昭和二十七年二月二十八日なした準禁治宣告の審判に対して適法な即時抗告の申立があつたから、審理の上次の如く決定する。
主文
本件抗告を却下する。
理由
抗告代理人は、原審判を取消す裁判を求め、抗告理由として主張するところは、末尾抗告理由の通りである。
よつて審理するに、本件記録を精査すれば、抗告代理人の主張する審判手続は違法とは認められず、抗告代理人の主張する権利の濫用の根拠たる事実は、これを認むべき証拠がない。しかも、原審判に適示する證拠によれば、原審認定事実はこれを認定することができ、これに基いて法律を適用し事件本人である抗告人に準禁治産の宣告することは相当であつて、これを目にして基本的人権の侵害とするのは当らない。
そうだとすると、原審判は相当であつて、抗告人の抗告は理由がないからこれを却下すべきものとし、主文の如く決定する。
(裁判長判事 浅野英明 判事 熊谷直之助 判事 臼居直道)
抗告理由
一、凡そ人を準禁治産者と決定することは、人の権利能力を制限する由々しき重大事であつて軽々に為す可きではなく、申立人の意図するところ、申立人自らの性行、目的等を考察して、申立人と事件本人との平常からの利害関係等から判断して、「何の為めにその申立を為したのか」を充分に究明する事が必要である
且つ又、その申立人が審判期日に帯同して出頭審問に応じた人々は、申立人と如何なる利害及身分関係があるか等も亦充分考察した上、そのいう処に如何なる価値を与うべきかを決定せねばならぬと思う
二、然るに原決定を為したる原審判は、事茲に出でず、事件本人が第二回期日である二月廿八日には身体の故障で出頭出来兼ねる旨本代理人を通じて申入れてあつたに拘らず、本人の審訊唯一回だけで決定をしたのは妥当ではない
三、又、申立人は事件本人の養女ではあるが、同人はかねて妻及三人の子ある○○○駐在の警察官A(本件の証人)を自宅に引き入れて同棲するに到つた為め、Aは免職せられ妻は三子を抱えて協議離婚の上、その実家に帰る等の不倫の行為をなすため事件本人は之を強諫するに至つて双方感情の疎隔を来す結果となり全く養母家に出入しないものである
又、二月二十八日、審訊せられたBも全く養母家に出入せず、世間からは全く無関係のものと観られている様な関係にあるもので、そのいうところ全く事実に反するのである
四、なお事件本人を浪費者とする判断資料は、申立人が家事審判官の問に対し
「……以前は相当資産を持つていたのに次から次へと男に財産を呉れてやつて……」と答えたのにある様だが、本人は如何なる財産を持つていて、如何なる男にくれてやつたかも明かにしていないのである
所謂念書と題する書面に明かな通り本人の財産はその目録に示すものだけである。
五、又、本人は現在全くの孤独の身であり、戸籍上の養女は前述の始未であつて、何時でも養子縁組を解消し得る立場であつて見れば、本人が民法上の規定によつて扶養し或いは扶養せらるる地位にはない者であるから、誰れ人も、本人の浪費に対して利害関係はない筈である(例令本人が浪費者だとしても)
孤独の五十歳を超える事件本人が唯一の財産を抱いて、自身の心に適う相手に老後を見てもらおうと考えるのに対し、如何なる理由で、何を目的としてそれを妨げるのか、又それを妨げる権利が誰れ人が有しているというのであるか、古い「家」という観念の残滓のみがそれを為し得るのみである
六、以上陳述した通り本件申立は、その申立人等一団の身分、性行、利害等の関係から極めて不純なものであつて、民法上の規定を利用して為した権利の濫用に他ならず、而も最も尊重せらるべき人の基本人権の侵害である
因て本件決定は妥当ならざるものとして取消さるべきであると信ずるので申立の通りの裁判を求むる次第である